2月23日「倉敷子育てハンドブック『ひとりじゃないよ』出版記念講演会・シンポジウム」の最後で行われた代表・安藤のあいさつ(全文)
皆様、今日は長時間にわたりおつきあいくださり、誠にありがとうございました。
最後に、私、ペアレント・サポートすてっぷ 代表の安藤より、今日お越しくださった皆様へ、ご挨拶をさせていただきたいと思います。
今日お申込み下さった方は、障害のあるお子さんの保護者の方、学校の先生、お医者様など、実に幅広い層にわたっています。実は今日、兵庫県から新幹線に乗ってきてくださった方もいます。本当にありがたいことだと思っています。
また、中には、まだお子さんが小さくて、このような講演会に初めて参加するのだという方もおられました。また、ハンドブックを開いて読み進めているうちに涙が止まらなくなったと書いてきてくださった方もおられました。
そのような方たちに、私たちが今日ここでいったい何を提供できるのだろうとスタッフで色々と話し合ってきました。
その結果、最初のご挨拶でも言いましたが、参加した皆さんが、来た時より帰るときに、少しでも元気になっていただけるような、そんな会にしたいね、ということになりました。
今日が本当にそういう日になったかどうか…ぜひ、アンケートでお知らせ願えればと思います。
私たちは、障がい児の保護者による保護者支援の団体です。県内では、保護者支援だけに特化した団体は、まだ珍しいのではないかと思います。
そのせいでしょうか、最近よく、新聞やテレビの取材を受けるのですが、そうしたときに、なぜこのような活動をしようと思ったのかというのを一番に聞かれます。私たちは色々と答えます…自分たちも昔先輩お母さんたちに助けてもらったから今度は自分が若いお母さんたちを助けられないかと思って、とか、今のお母さんたちは先輩保護者との縦のつながりが薄れてしまい、孤立化してしんどそうに見えるから、とか、保護者の苦しみの芯の部分を理解できるのは同じ立場の保護者だけだと思うから、とか。
それらは全て本当のことではあるんですけれども、実は本当の、本当の答えを、私はまだどこでも話していません。
なぜ私たちが同じ立場の保護者を支援しようと思ったのか。どういう気持ちで支援をしているのか。
それは結局のところ、私たちは無意識のうちに、自分で、過去の自分を救おうとしているのだと思います。
自分たちの過去に、傷ついて行き場が無くて、救われない自分がいた。
そのことがどうしても、私たちの心の中から消えません。
どんなに今、子どもが落ち着いて、自分たちも幸せを感じられるようになったからと言っても、過去の自分たちが完全に消えるわけではない。時がたつにつれ薄らいでいく感情はあっても、あのころの自分たちの苦しみと心の中にできた傷を、全て無しにしてしまうことはできないのです。
私たちは、私たちの前で涙を流す保護者の姿に、過去の自分の姿を見ています。あのころの私たちとまったく同じ姿がそこにあります。そこに手を差し伸べたいと思う気持ちは、決して、支援をしてあげるとか助けてあげるとか、そういう上からの気持ちではまったくなくて、結局は、過去の自分自身に手を差し伸べているのです。
支援者というのは、自分が救われるためなどという利己的な理由で支援をしてはいけない、と何かで読んだことがあります。しかし私たちは、支援団体と言ってもプロではなく、ただの普通の保護者です。支援活動をしようという動機の根底に、過去の自分を救いたいという思いが少しだけあったとしても、それは許されるのではないかと思います。
ただ私たちは既に、一番キツい想いを消化してきました。
過去に救われない自分がいたとしても、自分の古傷をなめて癒すために他人を利用しようと思ってしているわけではありません。
私たちが若い保護者の方々に伝えたいのは、私たちの今の姿です。
ここまで十数年、子どもと共に歩いてきた私たちが今、感じているのは、未来への重苦しい絶望感でも、足元の不安感でもありません。
今の私たちにとって、障がいのある子との生活はごく自然なことであり、むしろそれ以上のものとなっています。
私たちは、あの子たちによって、新しい、意味ある人生を、もらいました。
普通なら見過ごすような小さなことの価値を教えてもらい、人の優しさを以前の何倍にも感じられるようにしてもらい、社会に対して疑問を持つこと、人生の目標、そして自分の生きる意味そのものを教えてもらいました。
あの子たちなしの生活は考えられない。確かに苦労は人より多いかもしれない、しかも、これから先も、苦労も悲しみもまだまだやってくるかもしれない。ですが、そういうことも含めて、私たちは、私たちと、子どもたちと、そしてその周りにつながってくれているすべての人たち、全部ひっくるめて、この人生を「愛おしい」と感じています。
ハンドブックの冒頭にも書きました。私たちが、障がいのある子どもがいたからこそ出会えた人たちとの温かく優しいつながり。ハンドブックが完成したことも、今日この会が開催できていることも、すべてこのつながりによるものなのです。そのことを考えた時、この自分たちの人生を、他の誰の人生よりも愛おしいと、感じずにはいられません。
そしてこのような温かいつながりは、決して私たちだけのものではなく、ここにおられる保護者のどなたでも、少しその手を伸ばせば、手に入れられるはずのものなのです。
良い人たちに出会えた私たちは幸運でした、などと言いたくはありません。そんなことが運で左右されないような社会に私たちはしていきたいですし、していかなければならないと思っています。
今日ここに集った全員が一人一人、親も支援者も教育者も、それぞれがそれぞれの立場で、できることを精一杯していけば、障がいのある子どもと、その家族の未来は確実に変わるのではないかと思います。
私たちペアレント・サポートすてっぷも、そんな未来を作るための礎の一つとなるべく、頑張っていきたいと思っています。
最後に、今日の出会いをご縁に、皆様のお力を私たちにお貸しくださるようお願いし、わたくしからの終わりのご挨拶とさせていただきます。
本日は誠に、ありがとうございました。